tateさんの小説

【メタナイトの逆襲:サイドストーリー】Zapping of 18: ミスコンセプション


『――ひ、左ウィング大破!被害面積、約74%!!』
『げげっっ』
『左右のバランスを崩しまくってるだス!』
「何だと!? くそっ」
 伝声管を介して、ノイズが混じったクルー達の悲鳴が飛び込んでくる。ついでメタナイトの落ち着いた声が聞こえてきた。
『セイル収縮。右ウィングの浮力を下げろ』
「とりあえずお前達、セイルを畳め!」
「了解!」
 ハルバードの中枢である動力室は、損傷状況のアナウンスが入るたびに、出力のチェックや推力バランスの調整にてんてこまいになっていた。
 機関長がメインモニタの前に陣取り逐一部下達に指示を飛ばす。ハガカ達メカニックが機関長の指示に従い、ハルバードの動力を調節する無数のバルブを捻っていく。
「ったく、一体上では何が起こってんだ?」

           ◆

 みらまた、ふぇあとの戦いから離脱したカーヴィは、人気のない倉庫の一つに身を潜めていた。ふぇあに斬られた腕の傷に左手を強く押し当てる。左手がほのかに光り、右腕の切り傷は見る間にふさがっていった。
「…………」
 薄暗い倉庫の中で息を殺して消費した魔力の回復を待つ。付近に人の気配はない。しばらくはここに留まっても大丈夫だろう。カーヴィは小さく息を吐き、壁に背を預けた。
 孤児院で暮らした日々のことを思い出す。
 カーヴィがあまり社交的な性格ではなく、対するみらまたは大っぴらで誰とでもすぐに打ち解けることが出来る子だった。同じ施設で育った。接点はそれだけで、みらまたとは殊更仲が良かったとは思っていない。
 それでも、みらまたに付随する思い出は多い。
 アイスクリームアイランドの砂浜によく埋められた。大抵の場合は何とか自力で這い出して戻ったが、一度だけどうしても自分の力で砂を払いのけられず、そのまま日が沈んでしまったことがあった。
 このまま潮が満ちたら自分は死んで、あの薄情な両親は喜ぶだろうな……そんなことをぼんやりと考えていると、こちらに向かって砂浜を駆けてくる影が一つ。他にももう一つ、少し大きな影が遅れてこちらにやってくるのが見えた。
 すっかり諦めきっていたカーヴィの虚ろな目に映ったのは、ぼろぼろと涙をこぼすみらまただった。「ごめん、ごめんよ……!」と謝罪の言葉を吐きながら、必死に砂の中から引っ張り上げる彼の声は、今でも耳の奥に残っているかのようだ。
 今考えてみれば、みらまたは自分のことをあれやこれやと気に掛けてくれていたように思う。周りの子がちょっかいを出してきても、その度にみらまたが盾になってくれていたように思う。
 だからカーヴィも自然と彼とは話す機会が増えた。彼の話も沢山聞いたし、自分の事も沢山話した。気が付けば何時も二人で居た。
 ――世間ではそういう相手のことを“友達”と言うのだろう。
 それでもカーヴィは彼を“友達”だとは思っていない。みらまたはカーヴィに何も告げず、一人で孤児院を出て行ったからだ。
 何故彼は自分にすらそのことを告げなかったのだろう。
 裏切られただなんて思っていない、大体ヤツとはそんな間柄ではない。そう言い聞かせて、己の心を誤魔化し続けてきた。それでもどろどろとした澱は心に溜まり続け、アイツの行方を風の噂に聞いたときに、小石が心の淵に落ちた。ぽちゃん、と聞き逃しかねない音しか立てなかったそれは澱を巻き上げ、行き場のない感情となって遂にはカーヴィを突き動かした。
 あいつの横っ面を一発ぶん殴ってやらなければ気が済まない、と。
 だからここで引くわけにはいかないのだ。

           ◆

「あの時の貸し……って何のことだ?」
 左ウィングの爆発の影響を受けない場所まで、ふぇあを引きずって移動したところでみらまたは端と呟いた。
 目立たない子だったがカーヴィとは自然と馬があった。一番仲のいい友達……親友だった。それでも幼い頃の記憶は、日々の生活の流れの中で次第に薄れ、最近ではかつての親友を思い出すことも滅多になくなっていた。そんな時にこんな形で再会するとは。しかもこちらに対して敵愾心を抱いている。彼に対して色々やってきた悪戯を考えれば、憎まれていても致し方無いとは思う。
 そう考えると、貸しになりそうな事なんて在りすぎて何が何だかわからない。
「そんな大したことじゃないと思う……ぜ? ふぁあああ〜」
 みらまたに片足を掴まれたまま、ふぇあは暢気にも大きく伸びをした。
「お前、起きてるんなら俺に運ばせるなよ」
「今起きたばっかって。さっきの和風侍とは幼馴染みなんだろ? だったら、『貸し』もガキの頃の話だ。大したことじゃないだろうし、そんなのは唯のきっかけみたいなもんだろ」
「きっかけ……」
「そういうのでもなきゃ、幼馴染みが改めて再会なんて気恥ずかしくない?」
「なんだよ、随分知った口聞くじゃねえか。お前にはそういう経験があるのかよ」
 足を掴まれ仰向けになったまま、ふぇあは頭の後ろで手を組んだ。唇をとがらせ記憶を探っていたようだが、「いや、特にはないかな……」とテキトーな返事が返ってきた。

 アイツが来たら起こしてね、とふぇあが狸寝入りを決め込もうと瞼を閉じたその時、みらまたがようやく足から手を放した。
 やれやれ、と頭で思うよりも先に体が反応した。跳ね起きると得物の柄に手を置く。みらまたは疾うに彼らの前に現れた人物に気付いていた。
「カーヴィ」
 みらまたが名を呼んでも、相手は何も答えない。
「あれから俺、考えてみたんだ、お前に借りなんてあったかってさ。それで……ようやく一つだけ思い出した。アレだろ?」
 刀の柄に置いた手が、びくりと動いた。
「お前から昔借りた100Gを返していない!」
 ぷち、そんな音がふぇあには聞こえた気がした。次いで鈍い金属音、こちらは間違いなく鼓膜を震わせた。
 眉をつり上げたカーヴィが、その刃をみらまたに向かって振り下ろしたのだ。
「あ、あれ? それじゃねぇのか。じゃあ砂浜に埋めて放置したことか」
「……違う」
 ぼそりと一言答える間にカーヴィの刀はみらまたを三回斬りつけた。それらを全て受け止めてから、みらまたは首を捻る。
「あー、じゃあお前のおやつを食べちまったことだ! でなければ、寝ている間に顔に落書きしたこととか?」
「ちょっ、おま……」
 カーヴィの攻撃がみらまたにしか向いていないのをいいことに、壁に寄りかかって傍観していたふぇあは思わず噴いた。子供の可愛い悪戯でもちりが積もれば何とやら、ちょっとカーヴィなる人物に同情してしまった。一体どんな関係だったんだこいつら。
「ふざけるな!」
 唐突に響いたカーヴィの怒号に、みらまたの動きが止まった。おいおい敵さんの目の前で固まってどうするよ、と体を起こしたふぇあが次いで見たのは、カーヴィの拳がみらまたの顎にめり込む所だった。
 まともに顎に一発貰ったみらまたは思わずたたらを踏む。その足下はおぼつかない。
「貴様は……貴様は、何も言わずに姿を消した! 何故だ!」
 続けざまに繰り出された拳はかわした。
「はあ? 何だよそんなこと根に持ってたのかよ」
「そんなこと……誰にも……オレにも何も言わず一方的に出て行ったことを、そんなことだと!」
「ああ、そんなことだ。お前にはカンケーねえだろ」
 二人とも得物は床に取り落としてしまっていた。徒手空拳で一方的に攻撃するカーヴィと、困惑気味にそれをかわし続けるみらまた。何となく事情が読めたふぇあは傍観を決め込むことにした。
「貴様に……」
「何だよ!」
「貴様に……置いて行かれたオレが何を感じたかなど、貴様にはわかるまい!」
 そう喚いたカーヴィの左ストレートを、みらまたは敢えて正面から受けた。みし、と鈍い音と共に、カーヴィの拳がみらまたの鼻を潰す。
「置いていったつもりなんかねーよ……」
 流れ出した鼻血を拭いながら、みらまたの口からぼそりと言い訳じみた言葉が零れた。
「施設を出て行くなんてさ、そんなこと漏らして送別会なんてされたら後ろ髪引かれるだけだろ? 見送られるのだって御免だった。どんな顔して見送られればいいんだ。それにさ、どんな顔して言えばよかったんだよ」
 カーヴィは拳を握りしめたまま、みらまたを睨め付けている。睨み付けたまま口を開く様子はない。
「でも……逆の立場だったらきっと俺もお前に対して怒る。何で言わなかったんだってさ。そうだ、そうだよな……すまねえ。お前は俺の親友だもんな」
 カーヴィは睨め付けたまま、みらまたはうなだれたまま、互いに目を合わせることはなく会話は切れた。
 丁度いい頃合いだろう。はいはい、とふぇあが二人の間に割って入った。
「まあまあお二人さん、そろそろ止めようぜ。どうやら双方の事情は通じたようだし、せっかくこうして再会できたんだしさ。もういいだろ」
 憮然とした顔付きのまま、それでもカーヴィは一歩、二歩と下がって距離を置く。足下に転がった得物を拾い上げると鞘に収めた。そのカーヴィに対して、みらまたは一片の紙切れを差し出した。
「これ、俺の連絡先だから」
 しばしそれを睨み付けていたカーヴィは、「たまには先生に連絡しろよ」とぼやいて紙を受け取った。そのまま踵を返した侍を、ふぇあが呼び止める。
「おっと和風侍さん。アンタも連絡先コイツに渡しな。じゃないとアンタから連絡をしないといけなくなるぜ?」
 それって気まずくないの? と口の端をつり上げると、カーヴィは懐から紙とペンを取り出し何かを書き付けてから、みらまたに押しつけた。そして二人に背を向けた。
「これからどうするんだ?」
「……適当に考える。少なくとも、もうここには留まらない。――じゃあな」
 今度こそカーヴィは二人の前から姿を消した。
「これで任務完了ってとこかな? ま、誤解は解けたようで何より」
 そうだな、と肩を竦めたみらまたは、受け取った紙切れを大切にしまい込んだ。
「お前にはこういう感じの親友っていねえの?」
 うーん、とふぇあは腕を組んで考えてみる。血縁も健在だし、こういったごたごたに首を突っ込みそうな友人知人は……あー、一人だけいるような、いないような。
「ま、俺はそんなに苦労の多い人生は送っちゃいないしね。冒険者ギルドで知り合ったヤツ、ぐらいかなぁ」


 ――くしゅんっ。
「あれ、風邪でも引いた? ……はっ、もしや誰かがこの私の噂をしているっ!? きっとそうね、そうに違いない! ふふふ……ふふふふふ! サインハンター・シルフィードも有名になったモノね!」
 などという雄叫びを、デデデ城に勤めるワドルドゥが聞いたとか、聞かなかったとか。

           ◆

                    To be continued...

                    2011Mar24 written by tate

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