tateさんの小説

カービィとお菓子のオリ(お題小説『お菓子』)


 ある日、大王様は配下である我々をデデデ城の広間に集めてこう言いました。
「カービィをぎゃふんと言わせるためのアイデアを募るぞ!」
 と。
 ああ、またか……広間をそんなけだるい空気が支配し始めます。
 大王様は、「今度こそ俺が大王だと知らしめてやるのだ! 明日までにアイデアを考えてこい!」と一人息巻いていますが、張り切っているのは大王様だけ。というのも、これがいつもの大王様の思いつきに過ぎないことを、我々にはわかりきっていたからです。
 大王様のいいところは色々と思い付くことではあるのですが、何分それが成功した試しはなく。プププランドの食べ物を独り占めにした辺りから歯車が狂い始め、何かを思いつくたびにカービィに計画を潰されたり、勝手に自滅したりと、いとまがありません。
 そして大王様はご自身で諸々の準備をするのが面倒だからと、我々を巻き込むのです。カービィに煮え湯を飲まされてきたことには同情できるのですが、はっきり申し上げて、我々を巻き込まないで頂きたい! 我々は無関係なのだから。いや、無数の同胞がカービィの無限の腹宇宙に取り込まれたことは事実なのですが、触らぬ神に祟りなし。
 それがわかっているから、広間に居た人々はやがて一人一人と去って行きます。
 私自身、カービィに突きまわされ目玉焼きにされそうになったことも幾多。その記憶が脳裏をよぎり、小さく体を震わせて踵を返しました。
 ああ、申し遅れました。私はワドルドゥ、大きな目玉と二本の髪のキューティクルが自慢のプププランドの住人です。

 全く、大王様の後先考えない思い付きにも困ったものだ、そんな事を思いながら自宅のリクライニングチェアでくつろいでいると、誰かがドアをノックしました。
 窓の向こうには真っ黒な空が広がっています。こんな遅くに一体誰だろう、そんな事を思いつつ扉を開けると、ワドルディがちょこんと行儀良く立っていました。
 事情を聞いてみますと、どうやら彼は大王様の狂言を真に受けて、色々と考えているのだそうです。そのアイデアを実現するためにはお菓子が必要だけど、今晩中には用意ができないと、困り果てて私のところにやってきたのだと言います。
 ああ、何て可哀想なワドルディ! 大王様にいいように踊らされて。私は思わず彼をひしっと抱きしめました、愛いヤツよのう。
「わかったよ、一緒にお菓子を作ろう」
 そう言うと、彼はぱぁっと顔を綻ばせました。この先きっと、彼にはいい事は待っていないでしょう。せめて手助けぐらいはしてもバチは当たらないと、心の中で涙を流しつつワドルディを家の中へ招きました。

 そして翌日。
 私はカゴ一杯のお菓子を担いだワドルディと共に、デデデ城へと向かいました。
「な、何だ。その菓子の山は……」
「大王様がおっしゃったじゃないですか、カービィをぎゃふんと言わせるアイデアを出せ! と。ワドルディが色々と考えたんですよ」
 皆が集う広間の中央で、私とワドルディは二匹で彼のアイデアを大王様達に説明します。
 まず、つっかえ棒で支えた丈夫なカゴを置きます。その中にはカービィの好物であろうお菓子類を仕掛けます。お菓子に釣られたカービィがやってきたところでつっかえ棒に結んだ紐を引っ張ればアラ簡単、カゴが落ちてカービィの生け捕り完了!
 説明が終わると、広間は耳が痛いほどの静寂に包まれました。そりゃそうです、こんなレトロな罠ごときでカービィが捕らえられるのならば、とうに誰かがやっているはずです。
「イイ……イイ! ワドルディ、そのアイデア採用だ!」
 ぎゃああ! わかっていないのが約一名。大王様、あなたとワドルディ以外の皆は、そんな罠が上手くいくわけがないと悟っていますよ。
 それでも飛び跳ねて喜ぶワドルディを見ていると、ちょっとでも成功率を上げるための助言をしなければならない気分になります。そんな気分になったのは私だけではなく。
「陛下、カービィをその罠にかけるのならば、籠ではなくビッグメタルン並みの強度と重さのある檻を使う必要があるでしょう」
 メタナイト様が厳かに口を開きました。
「つっかえ棒ではなく檻の入口に紐を結わえ、引くと扉が落ちるようにするのが宜しいかと思われます」
「成程、流石はメタナイト。だがそんな檻があるのか?」
「すぐにナイツに持ってこさせます。檻が届くまで、陛下は罠を仕掛ける場所を吟味されると宜しいでしょう」
 持ってこさせる? つまり、ビッグメタルン並みの強度と重さがあるオリをメタナイト様は既に持っているということ。何故、と疑問を抱きましたが、すかさず頭から追い出しました。追究した暁には、私は無残にも目玉焼きになってしまうに違いないでしょうから。
 邪念を吹き払った私は、大王様とワドルディの後について、他の面子と共にプププランドの草原を歩いていきます。「この辺でいいだろう」と大王様が足を止めました。
 なぁんにもない、本当に唯の原っぱです。こんなところにオリがあったら明らかに怪しいのですが……ダメだダメだ、疑問を抱くな私! 邪念はすかさず振り払うべし。
 大王様が、昨晩私とワドルディの二人で一生懸命作ったお菓子をつまみながら、オリの設置場所を考えていると、メタナイト様がハルバードで戻ってきました。ヘビーロブスターを器用に操作して、大王様の指示のとおりにオリをどすんと置きます。その衝撃で、私は若干地面から飛び上がりました。ビッグメタルン並みの強度と重さは伊達ではないようです。
 メタナイト様が、アックスナイト殿から受け取った縄を手早くオリの扉に結わえ付けます。そしてもう一方の端を大王様に渡しました。
「檻の方はこれで宜しいでしょう」
「よし! ワドルディ、菓子を檻の中に置くのだ」
 しかしワドルディは悲しげに頭をふるふると横に振りました。一体どうしたのだろうと私は駆け寄り、ワドルディの担いできたかごの中を覗きました。
 ――ない、空っぽです。
 苦労して一晩掛かりで作り上げたお菓子が、ひとかけらも残っていないのです。
「どういうことだ!」
 大王様が叫びます。貴方が全部食べてしまったのです、とビームウィップをかましてやりたい気持ちを必死に飲み込み、私はワドルディの背中を優しくなでました。
「お前ら、何か出せ!」
「マキシムトマトならありますが……」
 大王様の怒声に、誰かが控えめに答えました。
「それじゃカービィのヤツめが全快してしまうだろう! ――メタナイト、何か出せ」
 じと、と大王様に睨め付けられたメタナイト様は暫く沈黙を保った後、ふうと溜息を吐きました。
「わかりました、へそくりのキャンディを出しましょう。しかしそれは」
「ワドルディ、これを使え!」
 メタナイト様の言葉を遮り、大王様はその手からキャンディを取り上げるとワドルディに渡しました。
 私の顔ほどの大きさもあるロリポップには、星型の小さなキャンディがあしらわれています。どこかで見たことがあるなと思いながらも、それが何だったのかを思い出す間も無く、キャンディは罠の中に仕掛けられました。
 こんなもので上手くいくのだろうか、と漠然とした不安が私達の心を粗方塗り潰した頃、カービィがのこのことやってきました。
「わーい! キャンディーだ!!」
 まるでオリが見えていないかの如く、カービィはその中に自ら飛び込みキャンディを拾い上げました。すかさず大王様が縄を引くと、がちゃん! と派手な音を立てて、入口の扉が閉まりました。まんまとカービィはオリの中に閉じ込められたのです。
 大王様がガッツポーズをしました。
「やったぞ! これでカービィめもぎゃふんと……あ?」
 愛用のデデデハンマーを取り出し、早速ピンク餅つきをしようとしていた大王様がはたと動きを止めました。
 私達の動きはそれよりもっと前に止まっており、今やオリから少しでも距離を取ろうと、じりじりと後ずさりをしているところですが、大王様は気が付いていません。それもそのはず。大王様の目は、オリの中でピカピカと光り始めたカービィに釘付けになっていたからです。確認するまでもなく、カービィは無敵状態になっていました。
「やあ、デデデ! 今日はいい無敵日和だね!」
 キャンディを食べ終えたカービィがオリの中で右手を挙げました。ニタリ、と黒い笑みを浮かべながら。
「逃げろ〜〜〜〜〜!」
 誰かの叫び声を皮切りに、私達は蜘蛛の子を散らしたかのごとく四方八方に逃げ出しました。大王様の悲鳴が背後から聞こえてきますが、誰一人として足を止めることはありませんでした。

 その後、カービィにぼこぼこにやられた大王様は、メタナイト様が回収したそうです。 そして、このアイデアを提案したワドルディが大王様に餅つきされたことを風の噂に聞きました。

 それから暫く経って。
 大王様は我々をデデデ城の広間に集めてこう言いました。
「カービィをぎゃふんと言わせるためのアイデアを募るぞ!」
 と。
 ああ、またか……こうしてアンニュイな日々は繰り返されるのでした。

 おしまい。
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