tateさんの小説

【メタナイトの逆襲:サイドストーリー】Zapping of 10: 月と太陽


―――バタービルディング。

「もうダメ、あたし疲れた」
 レモンが3段先を行くスターリンのマントの裾を掴んだ。マントが引っ張られ、スターリンが仕方なしに振り向くと、すっかり息が上がり顔を赤くしたレモンが膝に手をつき、呼吸を整えようとしているところだった。
「体力不足。基礎トレーニングを怠ると、魔術の行使に影響が出るぞ」
 スターリンは淡々とした口調で、目の前でヨレヨレになっている女魔術師を突き放す。彼女は何よぅ、と力なく呟いた。スターリンの激に勢い付いて反論してくる様子もない辺り、本当にこれ以上進むだけの体力がないのだろう。スターリンは大げさに溜息をついた。
「休憩にしよう」

 レモンは螺旋階段の縁に腰掛け、足をぶらぶらと揺すった。そんなところに座って間違って落ちても助けないぞ、というスターリンの忠告もどこ吹く風、階段の縁に座り、床が遥か遠くにちらりと見える虚空に足を投げ出す。そして彼女は、生き返ったーと大げさに伸びをした。スターリンは階段に腰掛け、何も言わずに膝の上で組んだ自身の両手を見つめている。
「ああ、そうだ。何で魔術で頂上まで飛んでいかないのさ。地道に階段を登るよりも、飛んだ方が断然早いじゃん」
 レモンは上半身をねじり、スターリンの方へ顔を向けている。あっけらかんとした無邪気な声が、彼の神経に触る。スターリンはレモンを一瞥した。
「魔術に反応するブービートラップがこの塔の内部、至る所に仕掛けられている。頂上で何が待ち受けているかわからない以上、ダメージを負うリスクは避けておきたいんだ」
「へー、慎重なんだねぇ」
「これが普通だ。さて、尻が地面に根付かないうちに出発しよう」
 スターリンは立ち上がり、上を仰ぐ。塔を介して、遠くにぽつんと見えた青い空は、先程よりかなり大きく見えるようになっている。頂上はそう遠くなさそうだ。

 2人が無言のうちに階段を上っていくと、前触れもなく開けた空間に出た。階段はここでおしまい、どうやら塔の最上階に出たようだ。通路は左右両方に伸びてる。2人はきょろきょろと辺りを見回すが、人の気配はない。がらんとした通路が、そこにはあるだけだ。
「どっちに行ったらいいんだろ?」
 レモンが呟く。スターリンは彼女の呟きに答えずに、神経を集中させる。彼のすぐ隣に立つレモンは何も感じていないのだろうか? スターリンには、螺旋階段を上っている途中から、シャインのものであろうプレッシャーがずしんと重くのしかかっていた。邪悪な意志を感じさせるものではないが、歴然とした実力の差を感じさせられるものだ。シャインとブライトは名義上はデデデ大王の配下であるが、飽くまで名義上、だ。必ずしも大王の使いであるスターリンを立ててくれるとは限らない。ましてや突然攻撃されたら、どう対処しようか……
 気が付くと、震えるほど強く手を握り締めている。ずっと握り締めていた拳は、しっとりと汗ばんでいる。スターリンは2、3度頭を振り、レモンを見た。
「行こう。どちらへ進んでも、行き着く先は同じだろう」
 スターリンは右に伸びる通路へ足を踏み出した。レモンも慌ててスターリンの背中を追った。

 緩やかなカーブを描く通路を、無言のままに二人は歩く。歩を進むに連れ、レモンにもシャインからのプレッシャーが感じられるようになってきた。レモンのことは事前に連絡しておくと、メタナイトから言われているものの、ちょっとこのプレッシャーは波じゃないよ、と彼女は口の中で呟く。スターリンが必要以上にピリピリしていたのも、これなら頷ける。
 さらに進むと、やがて緩やかなカーブは終わり真っ直ぐな通路になった。その先には、人影が1つ見えている。
「人がいるよ」
 レモンは小声でスターリンの背中に語りかける。わかっているさ、とスターリンは左手を少し上げて応えた。
「いきなり攻撃されるかもしれない。気をつけて行こう」
 スターリンの言葉に、レモンはこくりと頷いた。

 実際には、通路の先に見えた人影が突然攻撃してくることもなく、2人は巨大な扉の前までやってきた。先ほどの人影は、この扉の番をしている兵士のようだ。2人が近づくと、手にした槍をすっと降ろし、彼らの進路を塞いだ。
「申し訳ありませんが、これより先は許可無き者の立ち入りを許すわけにはいきません」
 兵士は丁寧な言葉で、しかしきっぱりと侵入者であるスターリンとレモンにそう告げた。スターリンはレモンを一瞥する。
「あ、いやあたしは……あはは……任せる!」
 レモンのいい加減な言葉に渋い顔を作ると、スターリンは1人、兵士の下へ歩み寄った。
「私はスターリンと申します。デデデ大王の命により、バタービルディングまで参った次第です。シャイン様とブライト様へのお目通しを許可して頂きたい。大王からの書状はこちらになります」
 スターリンは懐から紙っぺらを取り出し、兵士に見せた。デデデ大王が、きっと門番や兵士がごねるからと、出際に彼に渡したものだった。兵士は直立不動の姿勢を崩さずそれを受け取り、目を通す。そして成る程と唸り、スターリンに書状を返した。
「確かにデデデ大王の使いの者とお見受けしました。失礼いたしました、お通りください。ところで、そちらの女人も大王の使いの者でしょうか?」
 レモンが口を開く前に、スターリンが「そうだ、同行者だ」と答える。兵士は槍を下げ、どうぞと扉を押し開けた。

 扉の向こう側には1つの部屋があった。スターリンが思っていた程広くない。部屋は中央で仕切られており、扉側の空間には薄手の絨毯が敷かれ、円卓とソファにローチェスト、外観の煤けた黄金色とは対照的な、こざっぱりとした白い漆喰の壁には、部屋に明かりをもたらす燭代の他に、不思議な色彩で描きこまれた絵画が何点か掛けられている。そして極めつけは部屋の中に漂う香り。甘酸っぱい熟したベリーの香りが、ほのかに漂っている。

 何だこの生活感溢れる部屋は……

 スターリンがくらくらしながらも、部屋の隅に視線を移すと、そこにはソファの上でくつろぐ麗人と、白磁のポットを片手にした男性の姿があった。シャインとブライトだ。スターリンとレモンの姿に気が付いた男の方……ブライトが、満面の笑みを二人に向けた。
「やあ、いらっしゃい。思ったより遅かったね」
 スターリンは遂に1歩引いた。


 遠慮すると頑なに断ったのにもかかわらず、スターリンの前にも白いティーカップが置かれた。白いカップに注がれた濃い赤紫色の液体からは、つんとしたアルコールの香りと共に、熟したベリーの香りが立ち昇っている。ブライトは慣れた手つきで、各人のソーサの上にシルバーのティースプーンを置き、テーブル中央には角砂糖が入った白磁の小さな壺を置いた。


 威勢良く乗り込んだはずのスターリンとレモンは、何故かシャインとブライトと共に円卓を囲み、午後のティータイムをたしなむことになった。ニコニコと笑みを絶やさないブライトと、つんと澄ましたシャインの2人を目の前に、レモンは居心地が悪くなりもぞもぞと体を動かす。ちらりとスターリンを見ると、あれだけ茶などいらないと言い張っていたはずの彼は、当然のようにフルーツティーを啜っている。レモンは釈然としないものを感じつつ、角砂糖を2つカップに落とし、スプーンでぐるぐるとかき混ぜた。
「それで、貴公らは何故ここへ入らしたのだ」
 シャインがいけしゃあしゃあと、2人に訪問理由を尋ねる。スターリンはカップをソーサの上に戻すと、シャインとブライトの2人を見た。ブライトはトングを片手に、焼きあがったばかりのマフィンをテーブル中央のバスケットに移しているところだった。
「……まめですね」
「こういう性格なんだよ、僕は」
 ブライトは満面の笑みを全く崩していない。幸福絶頂な顔つきでマフィンをつまむその姿は、なんとも異様だ。
 スターリンは、ブライトが椅子に付くまで次の言葉を発するのを待つ。シャインはじっとスターリンを見つめたまま、何も言わない。ブライトが悪い悪いと言いながら椅子に付いたのを見届けてから、スターリンは口を開く。
「単刀直入に伺いましょう。デデデ大王は今回のメタナイトの蜂起の裏に、あなた方が噛んでいると睨んでいます。メタナイトとどのような協定を結んでいるのか、そこまで推測するだけの材料がありませんが、大王はブルータスの技術を生かすだけのリソースを提供することを条件に、事を動かしているのではなかろうか、と言っています」
「へぇ、大王も伊達に大王をやっているわけではないね……イテッ!」
 シャインがブライトの足をハイヒールの踵の部分で思いっきり踏んだ、のをレモンは見た。
「とすると、デデデ大王の推測はあながち間違えではないのですね」
「当たらずとも遠からずと言ったところだ」
 シャインが答える。
「そうですか。では、何故メタナイトは貴方達の力を借りてでも、技術力を生かす……つまりは、兵器の開発ですが、それを行わなければならないと考えたのでしょうか?」
「我らの都合、ではなく?」
「はい、メタナイトの都合が知りたいのです。かの海賊団ブルータスに本腰を入れてプププランドを制圧しようと乗り出させ、民衆の危機感を煽れば、人々は拠り所を求めることになります。貴方達のような宗教集団にとっては、そのような人々の心の隙間に付け入ることで、信者を増やすことができる。貴方達のメリットは比較的見えています。しかし、ブルータスサイドのメリットが、今回の蜂起には見えてこない。そこが引っかかる……と、大王の談です」
「彼らは、プププランドを掌握するだけの権力を欲しているのだ」
「違いますね」
 シャインの返答を、スターリンは一蹴する。
「圧倒的な武力で制圧しても、民衆は従わないでしょう。むしろ反発する。それぐらいのことはメタナイトでなくともわかります。ましてや彼の能力を考慮すれば、プププランドの武力制圧が第1の目的であるとは考え難い」
「ふむ」
 スターリンの言は的を得ていたようだ。シャインは返答しかねているのか、腕を組んで考え込んでいる。

「ところで、そちらの娘は? 先ほど連絡のあったレモンとやらか?」
 突然シャインは話の矛先をレモンに向けた。
「え? あ、はいそうです。一応、定時連絡との事ですが、そちらから引き取る物があるとかないとかで……」
 レモンは懐から白い封筒を取り出し、シャインに渡した。シャインはそれを受け取ると、2人の目の前で開封し軽く目を通す。ブライトはそれをシャインから受け取り、じっくりと内容に目を通している。
「その件だが、嵩があるのでな、オレンジオーシャンの要塞の方へ私から直接転送しよう。メタナイトにはそう伝えて頂けるか」
「え? あ、わかりました」

 スターリンがレモンを一瞥した。
「メタナイトに伝える?」
「う……、後で説明します」

シャインは再び視線をスターリンに戻した。
「スターリン殿、ブルブルスターはご存知か?」
「実際に行った事はありませんが、知識としては。確か、高度な軍事技術を有し、ゼロツー亡き今も、武装解除の気配すら見せていない星だと記憶しています」
「その通りだ。だが、現在の世界にはそのような大規模な軍事設備が要されるような敵がいるか? カービィがナイトメアを消滅させて以来、この星の周辺では大きな異変は見られないだろう。だが何故か、ブルブルスターでは未だに臨戦態勢を維持している。それは何故か」
 スターリンは少し、口を閉ざし考える。
「……僕らの知らない敵が、肉薄しているとでも?」
「さぁ、どうだろうな。これ以上は、私の口からは話せない。後はブルブルスターとのネットワークを確立するなり、メタナイトの口を直接割らせるなりするが良い」
 シャインはもうこれ以上は話さないとばかりに椅子にもたれ掛かり、冷め切ったフルーツティーを口に運んだ。

 スターリンは徐に立ち上がり、深く頭を下げた。
「有用な話が聞けました、ありがとうございました。この辺で失礼致します」
 マフィンをほおばるレモンを突付き、スターリンは踵を返す。扉を引いたところで、シャインに声を掛けられた。スターリンは立ち止まった。
「ブービートラップを嫌って螺旋階段を昇ってきたようだが、塔の頂上からも出入りは可能だ」
 スターリンはその声には答えずに、部屋を後にした。


>>ハルバードグレープガーデンに向けて進攻中。
  現在カービィはダイナブレイドと合流すべく移動中。


To be continued...

2004Jan13 written by A.Tateshina
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