離陸時の急激な G の変化からようやく開放された。 ハルバードの艦内にはいたるところにキャノピーが付いており、それだけを取り上げれば非常に観光に向いた船に見える。 ハルバードからのランドスケープ、日の光に映える緑が目にまぶしい、それは大変すばらしいものだ。これから起こるであろう戦いとは、まったく無縁のものであるかのように見える。 「離陸しましたねぇ…」 「そうやな」 艦底部のキャットウォークから二人分の頭が眼下を望む。 ポピーブロスJr.と星見草だ。 離陸直前、ハルバードのクルーを装い何事もなかったかのように戦艦に乗り込むことに成功した彼ら、これからのことを相談すべく、人気のないキャットウォークまで出てきたのだった。 何があったのか彼らは知る由もないが、先ほどまで騒がしかった艦内も今は落ち着いている。最大の難所であった離陸を無事完了できたことで余裕が生まれたのか、行き交う人々の表情も和らぎ、通路で顔をあわせれば他愛のないおしゃべりに花が咲く。やはり戦艦ハルバードのクルーとはいえ、所詮は彼らも付け焼刃。一介の市民の意識を拭い去ることまでは出来ていないようだ。 「さてと、これから何をするかなんやけど…」 おもむろにポピーブロスJr.が口を開く。 星見草はこくこくうなづきながら、彼の顔を見つめている。 ふと、ポピーブロスJr.が星見草のほうへ視線を投げる。 「な、なんや。あんまり凝視されると、何や恥ずかしいなぁ」 ぽりぽりと後頭部をかきながら、ポピーブロスJr.が嘯く。 「別に凝視してたつもりはないんですけどぉ〜…」 空に浮かぶ雲に視線を移し、星見草はぽわ〜っとつぶやく。 ポピーブロスJr.もつられて、空に視線を移す。 「あんま誰かとタッグ組んで行動したことなんて、あらへんからなぁ、うち。 一人じゃないってのも、たまにはええもんやな」 「ですかねぇ…」 「と、たそがれてる場合じゃないで。 今回のうちらの目的は、ブルータスの技術力を盗んでギルドに売ることなんや。 つーことで、まずは艦内の見取り図が欲しい。 簡単なものでかまへんから、どこぞから手に入れへんとな。 OK?」 「お、オッケ〜です〜。 でもどうやって?」 「ん、それなんやけどなぁ…」 ポピーブロスJr.の親指が何かを指差している。彼の親指からすすすっと視線をずらしていくと、その先には端末が鎮座していた。この端末、ハルバード艦内至る所に配置されている。もっとも露骨に露出しているものは少数派だが。 「コンピューターですか?」 「そや。だが問題が一つ。」 そこで言葉を切り、ポピーブロスJr.は星見草を一瞥する。 「うちはコンピュータのことあまり知らんのや。 コカはどうや?使えるか?」 にっこりと微笑んで星見草が答える。 「全然ダメです〜」 「やっぱり…ログインされた端末があれば、マップぐらい引き出せるんやけどなぁ。 そんな端末、司令室あたりにいかんとないやろ」 ぷぅ、とため息をつきキャットウォークの手すりに寄りかかるポピーブロスJr.。 手すりにもたれかかる彼の目の前、ハルバード艦内の通路を紙の束を持った女性が通りかかった。ばっと飛び起きたポピーブロスJr.!彼女が持つ紙の束、目を凝らしてみると、紙の束の中に見取り図のように見えなくもない紙切れが混ざっていることに気がついた。 挙動不審な相方を眼前にあわあわとうろたえる星見草に、ちょっとここで待っとれと言い残し、ポピーブロスJr.はハルバード艦内へ走っていった。 ◆ 「ん〜、レモンちゃん大丈夫かなぁ…」 なにやらぼやきながら通路を歩くは、ゆったりめのパンツに身を包んだ女性、餅猫である。先ほどメタナイトからの要請でバタービルディングへ出立した、レモンの身を案じているようであった。 「ここからバタービルディングまでなんて結構距離あるのに、いきなりテレポートで移動しちゃったからなぁ…間違えて石の中に出現にてロスト!とか言うことになってないといいけど」 ため息を一つついた。 「ちょっとそこのあんた。ちょい待ちいや」 突然、背後から変な関西弁で呼び止められた。 振り向くと、見慣れない銀髪の少年が立っている。 「あ、突然呼び止めてごめん。なんや、あのなぁ…」 ちょっと言いよどむ少年。何か用?と餅猫は彼のほうに近づいていった。 星見草がキャットウォークから艦内に目を移すと、目の前の通路で赤っぽいロングヘアの女性とポピーブロスJr.が何か話している様子が見えた。耳を澄ましたところで、彼らの会話が聞こえてくるわけではない。 むぅ、とちょっと考えてから、星見草もハルバード艦内へと移動することにした。 「何か用?見慣れない顔だけど」 自分が声をかけた女性がこちらに近づいてきた。 女性、というよりもまだあどけなさの残る女の子といった感じの子だ。 彼女が勝手に近づいてきてくれたおかげで、手に持っている紙に書かれている文字が読めた。遠めに見取り図のように見えたその紙には、「艦内配置図」という表題がついている。 「あ、あのな、配置図。 アレ、なくしてしもうて… 自分がどこに配置されていたのかわからんくなってしまったんや。 新しいの欲しいんやけど、誰に言ったらもらえるやろか?」 いかにも困ってます〜といった雰囲気を醸し出しながら、ポピーブロスJr.は目の前の女性に訴えかける。ポピーブロスJr.は、この手の演技は結構得意だ。とりあえずなんとかなるやろ、と鎌を掛けてみた。 「配置図?メイスっちに言うともらえそうだけど… あたしの使わないからあげるよ、ハイ」 「お、サンキュ〜、恩に着るわ。 て、これうちに渡してしもたら、アンタはどうするん?」 「あ、ブリッジに行けばいくらでも見れるから、あたしはいらない」 「ブリッジ?えろぉVIP対応やなー。 とにかく助かった。おおきに〜。 ほな!」 首尾よく見取り図兼配置図を手に入れたポピーブロスJr.は片手をあげ、そそくさとその場を立ち去った。 「ちょっと待って!あなたの名前は?」 銀髪の彼が背中を向けたとき、ふと思い出したように餅猫は名前を尋ねる。 ハルバードのクルーは大勢いる。なかなか全員の名前を把握するのは難しいが、こうして会話を交わした相手の名前ぐらいは覚えていこう。それが餅猫のスタンスだ。 銀髪の彼はギクッとした感じで振り向いた。 「えーと、うちはなー、ポピーSr.の弟なんやけど…」 「じゃあ、あなたがポピーブロスJr.? あれ?でもポピーブロスSr.は、弟は今回は関係ないっていってたような…」 「やば!」 突然ポピーブロスJr.は走り出した。 その瞬間、餅猫は気がついた。 彼が侵入者であることに。 「カプセルJ!彼を捕まえて!!」 餅猫がそう叫ぶと、十字路からカプセルJが一機飛んできた。そして通路を、ポピーブロスJr.の逃げ道をふさいだ。くっ、とポピーブロスJr.は顔を歪ませ、すばやく周囲に視線を走らせる。そして、改めて対峙するカプセルJを見やる。 星見草がそろそろとハルバード艦内に入ってきたとき、突然カプセルJが彼女の目の前に現れた。 気づかれた!? と一瞬警戒するも、目の前の機械は自分のことは目に入っていないことにすぐに気がついた。カプセルJの向こう側に、例の女性と機械のそれに挟み撃ちにされているポピーブロスJr.が見えたからだ。 ポピーブロスJr.はなにやら紙切れを手に持っている。先ほど話していた見取り図を首尾よく手に入れたらしい。 なんにせよ、ポピーブロスJr.の活路を切り開いてやるのが相方としての役割に違いないと、星見草は腕に抱える救急箱の取っ手を両手で握り直した。 「乗り込んで早々、こんなに早い段階では使いたくなかったんやけどな…」 カプセルJと赤い髪の女性に挟まれたポピーブロスJr.は、自身の右手を背後に回した。女性の方からは丸見えなのはわかっていたが、この際そんなことはお構いなしだ。ベルトに挟んであった小型銃をすばやく抜き、カプセルJに照準を合わせる! と、そのとき!! ごっっ!!!! 鈍い音が前方から響いたのを認知した時には、既にカプセルJが前のめりに倒れていた。いや、その様子は倒れていたというよりもごろごろと転がった、と描写したほうが真実に近いか。 ポピーブロスJr.が銃を構えた瞬間、星見草が手に持っていた救急箱でカプセルJに必殺の一撃をかましたのだった。 転がるカプセルJの向こう側に、ぶんぶんと手を振る星見草の姿が見える。 ポピーブロスJr.は後ろを振り向くことなく、カプセルJを飛び越えた。そして星見草の腕をつかみ、全力でハルバード艦内へと走り去った。 ◆ ハルバードのブリッジでは、メタナイトと司令官、メタ・ナイツの面々(除くトライデントナイト)がメインモニターをこぞって覗き込んでいた。メインモニターには一人の人物が映し出されている。 その人物とは、先ほどヘビーロブスター格納庫から現れた時代錯誤もはなはだしい和風侍だ。「こやつ、どうやってこの艦に侵入したんだ…」 司令官が、和風侍の静止画像が移るモニタをこつこつとたたきながら言う。 「確かに謎だスなぁ…テレポートだスかね?」 メイスナイトが相槌を打つ。 「その可能性が高いな。 いずれにせよ、我々の障害となりうる要素は切り捨てなければならん。 奴が何者かは知らんが、探し出して排除しなければなるまい」 そうメタナイトが言葉を発したところでブリッジのドアが開く。 入ってきたのは餅猫だ。 「メタナイト様!侵入者を2名発見しました!!」 「侵入者?他にもいるのかよ」 アックスナイトが振り向いた。 「そいつらがカメラに写ってないか探してみるか」 そう言うと、アックスナイトはキーボードを叩き始めた。 餅猫は、キーボードを叩く彼の後ろまで近づいてきた。 「キャットウォーク付近のカプセルJに搭載されてたカメラに写ってると思うよ。 本体は壊れちゃったけど、カメラが写したデータは残ってるっしょ?」 「キャットウォーク付近?というと、この辺りに入ってるか… と、これか」 メインモニタにカプセルJが採集した画像データが写し出される。 荒い画像に写っているのは銀髪の少年だった。 「Jr.じゃん!!」 画像が映し出された瞬間、ワドルディが素っ頓狂な声を上げた。 モニタの中のポピーブロスJr.は、背後から短銃を取り出しこちらに銃口を向ける。しかし彼が発砲する前に、画像はノイズへと変わった。 「この銀髪の少年と、もう一人。ローブをまとった女性がいました。 女性のほうはカメラの死角に入っていたようで写っていませんが…」 餅猫の言葉に、メタナイトはうなづく。 顎に左手を上げ、少し考えてからメタナイトはこう言った。 「その二人もあわせ、侵入者を撃退するためにチームを結成する。 面子の選定は司令官、貴公に任せよう。 二人組と先ほどの侵入者は別行動のようだから、チームも2組作れ。 出来るだけ早く、侵入者を燻し出し、艦外へ追い出せ。 いいな」 「りょ、了解であります」 敬礼する司令官。 続いて黒服のリーダーは餅猫とメイスナイトの方を見た。 「今後、外部からの魔術による干渉を受けないように、早急に結界を張れ。 以上だ」 言い終わるとメタナイトはブリッジを出て行った。 「司令官、しばらく席を外す。貴公のお手並み、拝見させていただこう」 「お任せ下され!」 ◆ >>ハルバードグレープガーデンに向けて進攻中。 現在カービィはワープスター発着所でおにぎりタイム。 ◆ To be continued... 2002Sep07 written by A.Tateshina |
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