ハガネカービィさんの小説

【エピソードパズル参加作品】[26 ほのおのまがたま]火力が命


 あるところに、太陽に愛された国がありました。毎日が真夏のように暑いその国での生活は少し大変でしたが、代わりに太陽の恵みをめいっぱい受けた野菜はとてもおいしく、人々は暑さに負けずにいろいろな野菜を育てては、ごちそうを作ってパーティを開くことを生きがいとしていました。
 ある日、この国を旅の王子が通りかかりました。世界を勉強するために旅をしている王子はこの国の噂も何度も耳にしていて、賑やかなパーティに参加することをとても楽しみにしていました。しかし、どうにも様子がおかしいのです。この国では砂漠のオアシスを上手に使って野菜や果物を作っていると聞いていたのに、どんなに歩いても乾いた砂漠と枯れた木々しか見当たりません。不思議に思った王子は、近くの小さな村に向かい、村人に聞きました。
「この国は野菜をたくさん作っていると聞いていたけれど、ずいぶん乾燥してしまっているんだね。雨が降らなくなっちゃったのかな?」
 村人は、口をなるべく乾かさないように、小声で答えます。
「フェニクロウが空気を乾燥させてしまうのです」
「フェニクロウ?」
 いつの頃からか火山に棲み着いた、火の鳥フェニクロウ。大きな大きなこの鳥が自慢の炎の翼で飛び回るたびに、国の気温は上昇し、オアシスは乾き、草木は枯れてしまうのだそうです。みんなの大好きなトマトも、みずみずしいキュウリも、キャベツもダイコンもサツマイモだって、今ではほとんど収穫できません。人々は、すっかり元気をなくしてしまっているのでした。
「そうか、それは大変だ。よし、僕に任せておいてよ」
 困っている人を放ってはおけないとばかりに胸をたたいた王子は、そのまままっすぐに火山まで行くと、洞窟を通って山頂のフェニクロウの巣までやってきました。
 フェニクロウは最初、何か渋そうな餌がやってきたなぁ、ぐらいにしか思いませんでした。しかしいざついばんでみると、王子はとても強く、フェニクロウはあっさりと魔法のロープで縛り上げられてしまいました。フェニクロウは炎の翼を使ってロープを切ろうとしましたが、それを見た王子は大きなビーズを取り出すと、フェニクロウの前に掲げます。するとあっという間に、フェニクロウの翼の炎がビーズに吸い込まれてしまいました。これでは火の鳥も形無し、フェニクロウは大人しくなりました。
 王子の帰りを待っていた村人はびっくり仰天。なんと、王子がフェニクロウに乗って飛んで帰ってきたのです。フェニクロウから飛び降りた王子は言いました。
「フェニクロウの炎はこのビーズに封印しちゃったから、もう大丈夫。野菜が枯れたりしないよ。フェニクロウも悪気があったわけじゃないみたいだから、これからは仲良く暮らしてね」
 王子はそう言うと、フェニクロウの方を向いて「ほら」と促しました。それを見たフェニクロウは、今までの迷惑を謝るかのように、ぺこりと頭を下げます。
「そうそう、それと、このビーズの炎を使えばとってもおいしい料理が作れると思う。ケンカしないで使ってね」
 こうしてこの国は元よりももっとおいしいお料理の国となり、みんな幸せに暮らしたのでした――

「……ってカービィカービィ! よだれが出てるヨォ!」
 キラキラとした瞳でどこか遠くを見据え、幸せそうによだれを垂らすカービィに向かって、マホロアが精一杯の大声で叫ぶ。ここは自分の船兼住居であるローアのコクピット。よだれでべとべとにされるのは御免被りたかった。
「はっ。ごめんごめん、ついおいしいお料理が浮かんで来ちゃって」
 ぎりぎりで我に返ったカービィはよだれを拭うと頭をかいた。
「ヤレヤレ……で、えっトォ、その手に持ってる『まがたま』が、今聞かせてくれた伝説のビーズなのカイ?」
 マホロアはカービィが右手で抱えている大きな赤い石を指し示す。
「うんそう、これが『ほのおのまがたま』だよ。まあ、今のお話は僕が考えたんだけどね?」
 割と面白かったでしょ? と得意げな顔をするカービィに、マホロアは言葉を失う。それから大げさに落胆のポーズをとり、質問を変えた。
「……カービィ、キミはボクに一体何の用があるのカナ?」
「あ、うん、実はね……」
 カービィがローアに乗り込んできてから早小一時間、ようやく本題が始まった。





「バーニンレオの力が『ほのおのまがたま』に吸い取られた、ネェ……」
「うん、レオはそう言ってる。もう炎が今にも消えちゃいそうでぐったりなんだよ」
「フーン……」
 本題が始まったかと思いきや、いきなり一緒に来て欲しいと言い出したカービィ。その頼みを渋々承諾したマホロアは、カービィの家に向かう道すがら、今度こそ事情を聞くことができた。カービィから渡された『ほのおのまがたま』を日の光にかざして観察してみる。
「うーん、確かにこれは何か……マァとにかく、それでボクになんとかして欲しいんダネ?」
「そうなの。マホロア、人をのせるの得意でしょ?」
「ヘ?」
 魔術の知識を買われたのだと納得しかけていたマホロアは、予想外の一言に大きなハテナマークを浮かべて立ち止まる。
「レオって、思い込みが激しいんだよねー。きっと今回も、僕の考えたお話を真に受けて、思い込みで倒れちゃったんじゃないかなって……だから、上手く誤魔化して立ち直らせて欲しいんだー」
 カービィはそれだけ伝えると、再び自分の家に向けて歩を進める。
「…………。カービィ、もしかしてあの時騙したの、まだ根に持ってるのカイ?」
「え、何が?」
「……うん、何でもないヨォ」
 どっちにしろ、恩人の頼みごとぐらいはきいておいたほうがいいカァ。マホロアは声に出さずにぼやくと、いそいそとカービィの後を追った。

 カービィの小さな家に入るや否や、その異様に重苦しい空気にマホロアは思わず仰け反ってしまった。それでも何とか耐えて中を見渡すと、奥のベッドにバーニンレオが寝ているが目に入った。元々青めではあった肌は完全に青白い色になっており、赤々と燃えさかる炎のようだったはずの髪も、むしろ燃え尽きた炭のような真っ白な色になってしまっている。この部屋に充満した鉛のような空気の発信源も、どうやら彼らしい。
「これは、重傷、だネェ……」
「ねー……?」
 マホロアはとにかく話を聞いてみようとベッドに近付く。すると、3歩ほど歩いたところで、バーニンレオが呻くように声を上げた。
「……やめろぉ……近付けないでくれぇ……」
「え、近付けるッテ……」
 立ち止まったマホロアは、自分が『ほのおのまがたま』を小脇に抱えたままだったことに気が付いた。カービィに預けようとそれを両手で持ち直すと、何となく暖かくなっていることに気が付く。そういえば、煌めきが少し強くなっているような……?
「……カービィ、これ、ホンモノかもしれないヨォ……?」





 すっかり日の暮れた頃、カービィはキッチンでニンジンを刻んでいた。
「ふんふーん、もうちょっと小さい方がおいしく煮えるかな〜」
 鼻歌など歌って上機嫌である。
「よし、こんなものかな〜」
 カービィが手を休めると、そこには一口サイズに刻まれたニンジンが、カービィの身長ほどの山を形作っていた。満足げにそれを眺めたカービィは、ちらりと後ろを振り向き、ベッドに横たわるバーニンレオの様子を確認する。ぐっすり眠っているバーニンレオの頭上では、天井からつり下げられた『ほのおのまがたま』が淡い光を放っていた。
 マホロアが言うには、『ほのおのまがたま』には本当に炎を吸収する力があるらしい。ただし、カービィの考えたような、悪者を懲らしめるための道具ではなく、炎を自由に出し入れして保存する……水筒の炎バージョンのようなものなのだとか。正しい使い方を知らないバーニンレオは弾みで『入れる』側の機能を発動し、力を吸い込まれてしまったのだというのがマホロアの推測である。『まがたま』にはレオの分以外にも相当の炎エネルギーが溜められていたらしく、もしかしたらホントウに火の鳥とかから吸収したのかもネ、とも言っていた。
「早く目を覚まさないかなぁ」
 マホロアのかけたおまじないによって、『ほのおのまがたま』は炎を『取り出す』側の状態になっている。今はエネルギーをバーニンレオに戻している真っ最中というわけだ。あれだけ苦しんでいたバーニンレオも、今は大きく口を開けて気持ちよさそうに眠っている。
「ううーん、用意も終わっちゃったなぁ」
 カービィはバーニンレオから視線を外し、周囲を見渡す。そこには先ほどのニンジンの山だけでなく、刻まれたタマネギ、きれいに皮をむかれてやはり一口大のジャガイモ、サイコロ状のお肉、そして炊きたての白いご飯が、カービィの家の狭いキッチンから溢れんばかりの分量で並べられていた。
「伝説の通りだっていうんだから、きっとおいしいご飯も作れるんだよね……楽しみだなぁ。あ、そうだ、付け合わせにトマトを用意しようっと」
 カービィはキッチンの隅にある冷蔵庫を開き、冷やしてあるトマトを一つ一つ手に取る。そして一番おいしそうなトマトを取り出して冷蔵庫を閉じたとき、もう一度バーニンレオと『ほのおのまがたま』が視界に入った。ふと思う。
「うーん、あれ、もうちょっと早くならないのかなぁ……」
 『ほのおのまがたま』は静かに赤い光を放っており、その光は少しずつ、真下で寝息を立てるバーニンレオの方に流れていく。
「もしかして、遠すぎるんじゃないかな?」
 バーニンレオと『ほのおのまがたま』の間にはカービィ一人分ぐらいの距離がある。赤い光はその距離をゆらりゆらりとさまよっていた。
 バーニンレオが元気になるまで、ゼッタイに触っちゃダメだからネ! マホロアが帰りがけに言っていた言葉が頭の中に響く。ぐぅぅぅぅ〜 同時に、カービィのお腹から空腹を告げる音が響いた。なにしろ、カービィは夕方から料理の準備をするばかりで何も食べていない。つまみ食いすらしていないという事実に、カービィは自ら誇りを覚えていた。
「マホロアは心配性だからなぁ。うん、別にどこかに持って行くわけじゃないんだし良いよね」
 カービィは頭の中の声よりお腹の中の声を優先することにして、バーニンレオの側まで椅子を運ぶ。そしてそれを踏み台に、『ほのおのまがたま』に手を伸ばした。
「半分ぐらい近付ければ、バーニンレオもあっという間に元気にうわちちちっ」
 手が『ほのおのまがたま』に触れるやいなや、反射的にそれを弾き飛ばしてしまった。炎の力を放出しているのだから、その温度は炎そのもの。カービィは慌てて右手を振って熱を冷ました。一方、弾き飛ばされた『ほのおのまがたま』は紐から外れて真上に跳ね上がり、やがて重力に従ってその向きを変える。
「あ。」
 カービィはこれまでの戦いで培ってきた感覚で、一瞬にしてその『落ちる先』を読み取った。が、受け止めようとした手はヤケドを恐れて硬直する。
 ころろん。
 実際には音はしなかったが、あまりにも綺麗な落下に、そんな音が聞こえた気がした。さらにカービィには、懐かしの『HOLE IN ONE』の文字と花火も見えた気がした。そしてその穴からはワープスターが……出てくる代わりに、火柱が上がった。
「……わーお……」
 『ほのおのまがたま』がホールインワンしたバーニンレオの口から、盛大に伸びる火柱。カービィはそれを呆然と見上げ、天井までは届いていないことにとりあえず安堵した。そして改めて火柱の根元の方に視線を下ろすと、突如その放出元である口が閉じ、代わりに今度は目が開いた。
「いやっほおおおおぉぉぉぉぅ!!」
 目を覚ましたバーニンレオは布団をはねのけて勢いよくジャンプすると、一旦天井に足をつけ、三回転ほど捻りながら着地する。どうして良いか分からなくなったカービィは、英雄スマイルで声をかけた。
「やあレオおはよう。気分はどう?」
「最高だぜぇぇぇぇ! 燃える! 燃えるぜぇぇぇぇぇぇぇ!!」
 バーニンレオは両足を踏ん張り、両手を左右に構えて叫び声を上げた。先ほどまで燃え尽きた炭のようだった髪が、今度は正真正銘の炎のように赤く輝き、激しく揺らめいている。
「そ、そう、良かったね。ところでその炎の力でお料理をお願いしたいんだけど」
「料理だとぉぉぉぉ!!」
「だ、ダメかな?」
 こうなったらとにかく要求を伝えるしかない、と判断したカービィの頬に、暑さ故なのか冷や汗なのか、一筋の汗が流れる。
「火力と言えば中華ってことだな! 任せろぉぉぉぉぉ!!」
 バーニンレオは右手右足を前に出し、ビシィ! と聞こえてきそうなポーズで応じる。
「い、いやカレー……」
「ファイアァァァァァァァ!!!」
 カービィが訂正するよりも早く、バーニンレオはバーニングアタックでキッチンに突進してしまった。カービィは慌ててバーニンレオが残した火の粉をかき消す。そうしている間にもバーニンレオはどこからか中華鍋を取り出し、ニンジンを炒め始めた。中華鍋はバーニンレオの吐く炎で一気に加熱され、ニンジンにあっという間に火が通っていく。そしてバーニンレオは、そこに手早くジャガイモを追加した。
「中華料理は火力が命だぁぁぁぁ! まだ足りないなぁぁぁぁ!!!」
「い、いやそれ以上やったら焦げちゃうんじゃないかなぁ?!」
 鍋から飛び出したニンジンが消し炭になっている様子を見て、カービィは手に汗を握る。お腹の中の『ほのおのまがたま』から元々持っていた以上のエネルギーが供給されているのだろうか、バーニンレオの火力はどんどん上がっていっているように見える。いつの間にか鍋の中ではタマネギとお肉も炒められているようだ。
「よっしゃぁぁぁぁ! 仕上げだぁぁぁぁぁぁ!!!」
 バーニンレオは最後に残されたご飯を鍋に加え、調味料を豪快に振りかけた。そして叫び声に呼応するかのように、その火力がさらに上がる。刹那、カービィはバーニンレオの額に輝く星マークが浮かび上がったのを見た。
「あ、あ……」
「ドラゴォォォォ!! ストォォォォォム!!!」
 バーニンレオの腕から炎の奔流が迸り、一瞬にして灼熱地獄と化した室内を炎のドラゴンが縦横無尽に飛び回っている。
「……うん……中華と言えば、龍だよね……」
 そしてカービィは、チャーハンと我が家の行く末を案じながら気を失ってしまった。





「……それで、家は大丈夫だったのカイ? どうやらカービィ自身は無事みたいだケド」
「うん。気が付いたらテーブルの上においしいチャーハンがあって、火傷もしてないし家も無事だったんだ」
 のどは渇いてたけどね。カービィが頬をかく。
「ふーん、被害を出さないあたりも職人(プロ)ってことなのかネェ……エート、で、バーニンレオは?」
「わかんない……」
「そっカァ……」
 夢だったことにしたいような展開に「探そう」とも言い出せない二人は、ぼんやりと青空を見上げるのだった。



 ――数年後、カービィはグルメツアーに出かけた先で、究極の火加減を体得した『火聖』なる人物を探すことになるのだが、これはまた、別のお話――

おしまい。



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 お読みいただきありがとうございました! ハガネカービィです。

 今回は第3回エピソードパズル『洞窟大作戦お宝コレクションpart2』の参加作品として『26 ほのおのまがたま』をテーマとした作品を書かせていただきました。
 エピソードパズルは、縛りがあるようで全然ない、ことお話のベクトルについては完全自由な企画なので、ある意味大変ではありつつ、色々と考えられるのが面白かったです(前回の『クリスマスツリー』の時は書きたいテーマが先にあったので、ちょっと違う感覚です)。
 結局、最近の個人的テーマである『自分の中のカービィワールドを賑やかにしよう』に従って、バーニンレオに初登場してもらったのですが……なんか初登場即退場みたいになってしまって、成功だったのか失敗だったのか。一人でも楽しんでくださった方がいたようなら成功と言うことで良いでしょうか?
 泡がはじけるようにポンと終わらせようとしたら、ただオチが弱いみたいな風味になってしまったことについては精進したいと思います。

 そんな作品ですが、感想などありましたら、エピソードパズル作品リストのコメントフォームか、感想掲示板から気軽にお伝えいただけましたら嬉しいです。挿絵企画の題材にしていただくのも大歓迎です!
  フォーム:http://www.knml.net/event_bbs/puzzle001.htm (期間限定)
  挿絵企画:http://www.knml.net/event_bbs/read.cgi?no=8 (期間限定)
  掲示板:http://www.knml.net/impre_bbs/read.cgi?no=1

 それでは改めて、お読みいただきありがとうございました!
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