ハガネカービィさんの小説

【お題小説参加作品】[秋]ゼロになった


「うむ、良い月夜だ」
 辺りがすっかり夜の闇に包まれた頃、デデデは自室のバルコニーで空を見上げていた。夜空には美しく輝く大きな三日月が浮かんでいる。先のナイトメア騒動で破壊されていなければ、立派な満月だったに違いない。
「……おいバンダナ、バンダナはいるか!」
 デデデは自室を振り返り、声を上げる。
「ふあっ……は、はい、ただいま〜」
 廊下の椅子でうとうとしていたバンダナドルディは、体全体で押すようにデデデの部屋の扉を開く。
「なんでしょうか、だいおうさま」
 その拍子にぱたりと倒れ込むが、デデデは特に驚くこともなく返す。
「カワサキにデザートを用意させろ。今日はここで食う」
「はい、かしこまりました。……えーと、あのう」
 バンダナワドルディは体を起こし、埃を払いながら返答するとデデデの方を見た。
「分かった分かった、二人分、作らせて良いぞ」
「かしこまりました!」
 その言葉に元気良く部屋を飛び出していく。デデデはやれやれと首を振ると、ベッドに座り、脇の窓から改めて月を見上げた。


ゼロになった


「だだだだ、だだっだ大王様! 大変ですぅぅ!」
 バーンという音と共に玉座の間の扉が開かれ、ワドルドゥが転がり込んできた。玉座で収穫報告書を読んでいたデデデは、怪訝と不満を足して二で割ったような顔で苦言を呈する。
「ワドルドゥ、玉座の間に入る時ぐらいは先に名乗れ」
 一方のワドルドゥは、涙を流して目線をぐるんぐるんと回しながら絶叫した。
「た、谷間の町の住人が、ゼロに、ゼロになっていますぅぅ〜〜!」
 谷間の町はヨーグルトヤードの、比較的グレープガーデンに近い小さな町だ。
「谷間の町の住人がゼロだと? 移転するという話は聞いていないぞ、どういうことだ。おい!」

 数時間後、ヨーグルトヤードには、凹凸の激しい山道を強引に走る大型のウィリーバイクの姿があった。黄金で装飾された三対の排気管は王室専用車の証、運転しているのはデデデだ。
 あの後、ワドルドゥは絶叫した姿のまま気を失ってしまった。その余りの事態に嫌な予感を覚えたデデデは、自ら出向くことにしたのである。
 それにしても、谷間の町の住人が失踪とは一体……。谷間の町はその名の通り谷、それも切り立った崖に挟まれた狭い町だ。古くは山道を整備する者達の宿場だったのだが、整備が終わった今も、作業者だったフレイマーやスパーキーの一部が残り、元から山岳に住むバウンダーやギップと共に生活を続けていた。最近では旅人の休憩地点として割と賑わっていると聞く。落石の危険でも出てきたか……?
「ん?」
 そんなことを考えていたデデデの視界に、地面に転がる緑色の物体が映った。それは、一体のスパーキーだった。ウィリーバイクから飛び降り、スパーキーを拾い上げて大声で話しかける。
「……おい! しっかりしろ!!」
「う、うーん……」
 しかしスパーキーはうなり声を上げるばかりで、目を閉じたまま反応を示さない。
「くそっ……ウィリー、こいつを麓まで運ぶんだ! 揺らすなよ!」
 デデデはスパーキーをそっとウィリーバイクに乗せると、代わりにハンマーを下ろす。ウィリーバイクは小さく頷き、元来た方へ走り出した。
「一体何が起きているというんだ!」
 デデデはハンマーを掴んで足早に山道を登り始める。谷間の町はもうすぐそこ。そう、そこの大岩を曲がれば町並みが見えるはず。その勢いで目印の大岩を通り過ぎ、左に向き直った。そして、硬直した。
 そこには、デデデの身長の三倍はあろうかという直径の、白い球体があった。球体には一つ、赤い目玉が付いている。その姿には見覚えがあった。いつぞや攻め込んできたダークマターの親玉、ゼロだ。しかもそのゼロが、そこに無数にいた。狭い崖の間に、積み重なるように、ぎゅうぎゅうと詰め込まれるようにして。
「ば、そんなッ」
 デデデはそこまで発し、口を左手で塞ぐ。ゼロらしきモノはこちらを見ていない。ならば、このまま気付かれない方が得策だ。もし一体に気付かれたら全員が気付くだろうし、それに、住人がゼロになった……『ゼロ』に変化したのであれば、不用意に攻撃もできない。
 しかしその判断も虚しく、ゼロの一体がデデデの方を向く。すると、残りのゼロも一斉にデデデの方に視線を向け、目を見開いた。
「あ、あああ……」
 その余りにおぞましい光景に、さしものデデデも足が竦んで動けなくなってしまった。ゼロ達はお互いの体が邪魔で動けずにもがいている。デデデは一瞬助かったと思ったが、すぐに、岩にヒビが入る無骨な音が聞こえてきた。刹那、ゼロのうち近い位置にいた三体が、崖を大きく破壊して浮き上がる。そして一つだけの目玉でデデデを睨み付けた。
 その時、攻撃を覚悟するデデデの脳裏に、ある影が浮かんだ。それは、ピンクの悪魔にして永遠のライバル、カービィ。
「(何でこんな時に……アイツならどうにかできるとでも)」
 デデデの頭の中のカービィは、数体のワドルディをまとめて吸い込んでいる。
「(まさかな)」
 辺りが暗くなった。終わりか……デデデが目線を上げると、そこにあったのは、ゼロと、ピンク色の壁。そして、爆音とも言える、良く響く声が聞こえてきた。
「美味しそうなお団子。やったね、いっただっきま〜〜〜す」
 ピンク色の壁、それは紛れもないカービィだった。ゼロよりも更に十倍はあろうかというその巨大なカービィは、笑顔で口を開くと、瞬く間にゼロを吸い込み始めた。ゼロは絶望の表情で必死に逃げようとするが、吸引力に負けて一体、また一体とカービィの口の中へ消えていく。そして、ゼロが減るに連れて風通しも良くなり……やがて、デデデの足が地面から離れた。
「やめろ、おい、カービィ、やめろ」
 絞り出すように呟くデデデの視界が、ピンクと赤に埋め尽くされていく。


「やめろおぉぉぉ〜〜!!」
「うわぁぁぁ! ご、ごめんごめん!」
 次の瞬間、デデデの目には再び、積み重なった白い球体が映っていた。但し今度の球体は、デデデの掌にいくつも載るであろう程に小さい。
「な、なんだ……一体……」
 その問いには足下から答えが返ってきた。
「いや、とっても美味しそうなお月見団子なのに、寝ちゃってたから、いらないのかなーって……」
 声のする方を見ると、ベッドの前で、絨毯にうつぶせになったままのカービィが、顔だけをデデデに向けていた。
「月見団子……?」
 改めて、横にある白い球体を見る。確かにそれは、月見団子、白くて丸い団子を積んだ物だった。当然、赤い目玉は付いていない。
「ということで、ボクにも分けてよー」
 カービィは起きあがると、月見団子とデデデを交互に見ながらそう言った。
「…………。食べて良いぞ。全部な」
 デデデがぼそっと答える。
「あ、やっぱり勝手に食べようとしたこと怒って……え、良いの? しかも全部?!」
 デデデは、半ば放心したような顔のまま、目を閉じ、小さく頷いた。
「……えっと、ありがとう。じゃあいっただっ」
「ここで食うな。持って帰れ」
 デデデが、今度は異様に鋭い声で言い放つ。
「え、う、うん、分かった。……良く分からないけど、お大事にね?」
 一瞬たじろいだカービィは、少し心配そうな顔でそう言うと、月見団子を皿ごと抱え、部屋から出ていった。
「……うーん」
 デデデはそれを見送ると、腰掛けていたベッドに倒れ込む。薄れゆく意識の中、声が聞こえた気がした。
「だいおうさま、おめざめですか?! おだんごたべましょう、おだんご!!」


おしまい


-----

 お読みいただきありがとうございました。ハガネカービィです。
 お題小説『秋』参加作品、『ゼロになった』、いかがでしたでしょうか。

 今回の作品は、リレー小説での『住人がゼロになった(いなくなった)』という表現を
 某氏が一瞬『住人がゼロになった(変化した)』と捉えたというエピソードを元にした、
 偶然の産物(?)から生まれた作品です。
 (その某氏には、ネタに使うことの許可を取ってあります)
 住人がゼロに変化したなら住人の数だけゼロがいるのかなぁ
  → あのサイズのものがたくさんいたらさぞ狭いだろうなぁ
   → 白い球体の山と言えば月見団子かなぁ
 ……そんな感じにして、今回のテーマ『秋』と繋がりました。

 お話の方は直球な夢オチになっているのですが、
 折角夢オチなのであれば、夢っぽい工夫をしてみたいと思い、
 『何か想像するとその方向に展開してしまう』という、
 個人的に夢で良く体感する要素を意識して含めてみました。
 その分かなり急展開になっているところもありますが、
 よろしければぜひ、デデデの気持ちになって場面を想像してみてくださいませ。

 急展開と言えば、今回は文字数に徹底的に苦しめられました。
 ルールは 3000文字未満 なのに、最初に仕上がった時点で実に 4500文字 。
 2999文字 まで必死に描写を取捨選択しましたが、結構重要なところも泣く泣く切っています。
 それが故に不必要に急展開になってしまった面もあって、そこは要精進ですね。

 そんな作品でしたが、少しでも楽しんでいただけたようであれば幸いです。
 もしよろしければ、投票&一言コメントフォームからご感想をいただけると嬉しいです。
  http://www.knml.net/event_bbs/vote003.htm (フォームの設置は期間限定です)
 また、長い感想については感想掲示板↓に書いてくださいませ。
  http://www.knml.net/impre_bbs/read.cgi?no=1

 それでは改めて、お読みいただき、ありがとうございました!
page view: 2136
この小説を評価する:                   (0)