ハガネカービィさんの小説

【エピソードパズル参加作品】[49 クリスマスツリー]たいせつなもの


たいせつなもの

 太陽の光の残滓すら消えた深夜、ブルブルスターの平原は静寂に包まれていた。昼から先ほどまで降り続いていた雪は止み、今は辺り一面に厚く積もった雪に月明かりが反射して、神秘的な銀世界が演出されている。

「リボン、まだ寝ないの?」
 その極めて静かな空間に、不意にひとつの声が響き渡った。
「アドさ……アド。皆さんは?」
 銀世界の中で一人佇んでいた妖精、リボンが振り返ると、そこにはリボンの想像した通りの少女、アドレーヌが立っていた。雪面から自分の身長分程度だけ浮いているリボンと、雪原に立つアドレーヌの目線の高さが丁度合う。リボンは自然とさん付けで呼びそうになって、『さん付け禁止令』を貰っていたのを思い出した。
「みんなもう寝ちゃった。カーくんもだけど、今回は旦那も相当疲れてたみたいね」
 アドレーヌは背後の小さなロッジを見やりながらリボンの問いに答える。この星での拠点にしている無人のその小屋からは、アドレーヌがそこから歩いて来たことを示す足跡が点々と続いていた。
「今日はデデデさんも大変でしたからね」
 今日のデデデ大王は、カービィを背負ったまま超巨大ハンマーをくぐり抜ける大活劇を演じていた。さしものタフマンも、疲れてしまったのだろう。リボンは昼間の冒険を思い出して苦笑すると、抱えているクリスタルの方を見やった。つられてアドレーヌもクリスタルに目を向ける。
「クリスタルも随分大きくなったよね」
「はい。みなさんのお陰で……あとちょっとです」
 しばしの沈黙が訪れる。リボンの抱えたクリスタルは、月明かりを阻害しない程度に穏やかで神秘的な光を放っている。

「……ううさむ……リボン、こんな場所でずっと外にいたら風邪引いちゃうよ?」
 不意に、アドレーヌが自身の手をこすり合わせながら言う。長袖の服を着込んでいるとはいえ、下はスカート。雪の星の夜は堪えるのだろう。そして出で立ちについて言えばリボンも大差ない。寒いはずなのだ。
「はい。……でも、もう少しだけ……」
 リボンはあまりはっきりしない口調でそう答えると、アドレーヌから目線を逸らし、最初に向いていた方向に向き直る。その目線の先、遠方には、暗闇の中にたくさんの細い影が見えていた。
「……リボン? どうしたの?」
 その様子に違和感を覚えたのか、アドレーヌがリボンの方に歩み寄る。その歩みに合わせ、新雪がサクサクと小気味よい音を立てる。アドレーヌはそのまま、振り向かないリボンのすぐ斜め後ろの位置までやってきた。
「リボン?」
 アドレーヌが再び声をかけ、改めてリボンの見ている方角に視線を向ける。その方角には、たくさんの細く背の高い……ビルの街並みが見えた。つい数時間前、日が落ちた頃に、カービィが巨大ロボットHR-Hと戦いを繰り広げた街だ。
「……本当に、あとちょっとなんですよね……」
 リボンが言葉を発する。その声はとても小さくか細く、アドレーヌは、静寂に包まれた銀世界の中でもなお、今にも消え入ってしまいそうな印象を受けた。
「……そうね。あとちょっとでクリスタルが元に戻って、リボンの星が助かるはず」
「ねぇ、アド」
 アドレーヌ声の終わりに、リボンの声が重なった。
「……なあに?」
 戸惑いつつ、応じる。一瞬の間の後、リボンはアドレーヌを振り向かぬまま、小さな声で続けた。
「……この星の皆さんは、こんなに凄い街を残して、どこに行ってしまったんでしょうね」
「え……」
 この数日冒険したこの星、ブルブルスターはとても科学が発展した星だ。こういった雪景色も見られる一方で、街には家具からおもちゃ、観葉植物まで扱うデパートもあったし、大規模な地下工場や、防衛のための巨大ロボットまで備えている。だが、リボンの言う通り、それを作り出したはずの住人は見あたらなかった。デパートのテレビには延々と砂嵐が映し出されていたし、こうやって夜中になっても遠くのビル群にはただ一つの明かりすら見えない。アドレーヌ達がそれらの近くで出会ったのは、あとから住み着いたと思われるノコギやコンセ、プロペラーといった、この近辺の宇宙で良く見られるのんきな生き物たちだけだった。
「そ、それは、きっとあんまり寒いからみんな引っ越した、とか……」
 アドレーヌは無理矢理返事を返す。このことについては正直、アドレーヌ自身も気にはなっていた。最初にこの星の様子を見た時には、文化的な施設やそこでのショッピングに大いに期待もしたものである。
「ホロビタスターもですよね。あんなに凄い遺跡があったのに、住んでいる人は……」
「…………」
 砂漠の星ホロビタスターも、一見すると砂と岩場の荒涼とした星でありながら、大きな機械仕掛けの遺跡を持っていた。その技術レベルはブルブルスターより更に高かったようだが(ブルブルスターの技術はアドレーヌにも多少なじみがある物だったが、ホロビタスターの物は理解できなかった)、やはりそこにも、それを作り上げたであろう住人は見あたらなかったのである。
「……あんなに強いロボットがいても、凄い遺跡があっても、駄目な時は駄目なんでしょうか……」
「……リボン! 大丈夫よ! 私たちにはあのロボットより強い、カーくんがいるじゃない!」
 リボンの考えていることを察したアドレーヌは、慌てて檄を飛ばす。咄嗟に出た否定の理論はリボンの論に対応できていなかったが、それしか浮かばなかった。
「カービィさんは、とっても強いです……けど……」
 リボンの声が雪原に消えていく。いくら強いカービィがいても、自分の星、リップルスターは助けられないかもしれない。もしかしたらすでにこの星と同じ状態かもしれない。頭の中に浮かぶ、誰もいない静かなリップルスターの光景……震えるリボンの抱いたクリスタルに、月明かりを反射する一滴の水が流れた。
「リボン……」
 アドレーヌが言葉を続けられぬまま、再び沈黙が訪れる。

「……ねぇリボン、クリスマスツリーって知ってる?」
 先ほどよりも長かった静寂は、三度アドレーヌによって破られた。
「えっ?!」
 余りの突拍子もない発言に、リボンは涙を隠すことも忘れて振り返る。その頭に、アドレーヌの左手がぽふっと乗った。
「知ってる?」
 アドレーヌが重ねて問う。
「え、えっと、雪の降る季節に、お祭りのために、飾る木のこと、です」
 訳の分からないまま、リボンはしどろもどろに答える。
「そうそう。ポップスターにもほとんど同じ習慣があるのよ」
 アドレーヌは笑顔で、真っ直ぐにリボンの顔を見つめている。ここで我に返ったリボンは、慌てて袖で涙の跡を拭った。
「っ……。そ、それでクリスマスツリーがどうかしたんですか?」
 リボンの動きが止まるのを待ってから、アドレーヌは改めて話し始める。
「うん。去年の冬だったかなぁ、こんな風に綺麗に雪が積もった日に、カーくんの家に遊びに行ったの」
「カービィさんのお家ですか……」
 リボンとカービィは出会い頭に冒険の旅に出ることになったので、リボンはカービィの家を見たことがない。どんな家なのだろう。
「その時、部屋に小さめだけど凄く綺麗なクリスマスツリーがあってね」
「は、はぁ……」
 構わず話を進めるアドレーヌに、曖昧な相づちを返す。
「家の中にツリーなんてちょっと珍しくて、カー君に聞いてみたの。これどうしたの、って」
「ポップスターでは家の中に飾らないんですか?」
 カービィの家の様子を想像していたリボンが、思ったままの問いを口にする。
「うん、無くはないけど、外の大きな木を飾ることが多いかな」
「そうなんですか……」
 リボンの知る限り、リップルスターでは屋外だけでなく、室内にクリスマスツリーを飾る家庭が多かった。でも、あの素朴なポップスターでは、そんなに室内用の飾りというのはないのかもしれない。
「でね、カーくん、何て言ったと思う?」
「……分かりません」
 とはいえ、流石にリップルスターから持ってきた、と言うことはないだろう。リボンはアドレーヌの意図が見えないまま、会話を続ける。
「それがね、洞窟の中の宝箱から出てきた、って言うのよ」
「え、クリスマスツリーが宝箱から、ですか?」
 ちょっと想像しかねる状況に、思わず問い返す。
「そう。私もびっくりしちゃって、間違いじゃないの、って聞き返したけど、間違いないって。しかも、他の宝箱からは指輪とか水晶玉に混ざって、お鍋やタイヤも出てきたんだって」
「そんな物まで……誰が入れたんでしょう」
 アドレーヌは当時のカービィとの会話を思い出しているのか、何となくおかしそうに話している。一方のリボンは情報の整理が追いつかず、きょとんとした表情のままだ。
「不思議でしょ。もしかするとイタズラかもしれないぐらい。でもね」
 ここで一旦言葉を切ると、アドレーヌはリボンをしっかりと見つめ、続けた。
「その時カーくんに言われたの。『別に良いんじゃないの』って。『宝箱ってたいせつなものを守る箱でしょ。それがその人のたいせつなものだったんだよ。それで良いじゃん』って」
 リボンの反応を待たず、アドレーヌは続ける。その顔はだんだんと真顔に戻っていった。
「そのあと、カーくんに、カーくんのたいせつなものは何なのか聞いてみたら、食べ物に混じって、ワドくんや旦那、たくさんの友達、それに私……ポップスターのみんなの名前が次々に出てきたわ」
「ポップスターの……」
「それで、私気が付いたの。カーくんは悪者とただ戦っているんじゃない。たいせつなものを守っているんだって。宝箱の代わりになって、私たちを守ってくれているんだって」
「…………」
「きっと、それがカーくんの強さの、ううん、ただの強さじゃない、絶対に悪者に負けない、必ずポップスターを守ってくれる強さの、秘密なのよ」
 アドレーヌはここで一瞬だけ息を付くと、続けた。
「ねぇリボン、あなたのたいせつなものは何?」
「……!」
 ここまで話についていくのに精一杯だったリボンの中に、一気にリップルスターの光景が蘇る。但し今度浮かんだ光景は、先ほどと異なり、みんなが楽しく過ごす、賑やかなリップルスターの姿だった。
「……わ、わたし、は……」
 一旦止まっていたはずの涙が、再び大きな双眸に集まり始める。リボンはとぎれとぎれに続けた。
「……リップルスターのみんなが、たいせつ……です……」
「守りたい?」
 アドレーヌがはっきりとした口調で問う。
「まもりたい……です……うう」
 涙をこらえきれなくなったリボンを、アドレーヌは抱き寄せ、クリスタルごと包むように抱きしめる。
「……その気持ちがあれば大丈夫。絶対に何とかなる」
「うう……」
「力が必要ならそれはカーくんや旦那がいるし、私もワドくんも手伝うから」
「うぐ、ぐすっ……」
「だからリボンは、その気持ちを絶対に忘れちゃ駄目。絶対にリップルスターのみんなを助ける……リボンのたいせつなリップルスターを守るのよ」
「……はい……っ」
 アドレーヌの腕の中で小さく、しかし力を込めて返事をするリボン。その瞬間落ちた涙を受けたクリスタルがひときわ強く煌めいたが、二人はこれには気が付かなかった。



 翌朝、次の目的地を訊ねたリボン達にクリスタルが見せたのは、全体を黒い雲に覆われたハート形の惑星、リップルスターの映像だった。原型こそ雲越しに見えるものの、いや、原型が見えるからこそ、闇に包まれてしまったことが分かる自らの星の姿に、リボンは思わず表情を歪める。
 しかしリボンが振り向くと、仲間達はリボンの方を真っ直ぐに見つめていた。そして目の合う順番に、デデデ大王、アドレーヌ、ワドルディ、カービィが笑顔で、ゆっくりと頷く。
「みなさん……」
 リボンも、ゆっくりと頷きを返した。
「(デデデさんも、アドも、ワドルディさんも、何よりカービィさんも、力を貸してくれる。これなら大丈夫。……私も負けない。絶対に私のたいせつなものを、リップルスターのみんなを助けるんだ)」
 そんなリボンの決意を知ってか知らずか、カービィが周囲を促し、宇宙船でもあるクリスタルに向かって真っ先に走り出す。が、転んだ。後に続く仲間達はお構いなしにカービィを踏みつけて、クリスタルに飛び込んでいく。残されたリボンは、雪に半分埋まったまま動かないカービィを一瞬呆然と見つめた。
「(……大丈夫……大丈夫、だよね……)」
 リボンは少し頼りない救世主を雪の中から引っ張り出し、そのまま抱え上げると、一抹の不安を感じながらも負けじとクリスタルの中へと飛び込んでいくのであった。



おわり



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 お読みいただきありがとうございました。ハガネカービィです。
 『たいせつなもの』、いかがでしたでしょうか。
 今までのお題小説で書いてきたギャグ調とはベクトルの違う物語になったので、
 もしかすると驚いてしまった方もいらっしゃるかもしれませんが、
 少しでも楽しんでいただけていれば幸いに思います。

 今回の小説イベントは『洞窟大作戦のお宝』をテーマとした
 エピソードパズルと言うことで、私は『49 クリスマスツリー』を選択しました。
 イベント現在6月なので季節はずれと言えば季節はずれなのですが、
 あまり季節に捕らわれないようにしつつ、想像と連想から物語を構築しました。
 『何でこんな所、しかもこんな大変な配置でツリーが……』という疑問と、
 クリスマスツリーで連想する雪景色を掛け合わせた結果がこの作品。
 少々飛び過ぎ感は否めないのですが、逆にもし違和感なく読めたようでしたら嬉しい限りです。

 ところで、『ブルブルスターの住人は余りの寒さに引っ越した』というのは、
 任天堂公式サイトに書かれている、いわゆる公式設定だったりします。
 でもそれも(サイト上で)カービィの口から語られているという設定。
 実際はどうなのかなぁ、なんてあえて考えてみたりして。
 カービィ3と64は、本当に背景その他諸々の作り込みが細かいと思います。

 さておき、こんな作品ですが、もし感想などありましたら、
 感想掲示板↓に気軽に書いていただけますと嬉しいです。
  http://www.knml.net/impre_bbs/read.cgi?no=1
 簡単な感想については、エピソードパズルリスト↓の一言コメントフォームでも歓迎します。
  http://www.knml.net/event_bbs/puzzle001.htm (フォームの設置は期間限定です)

 改めて、お読みいただきありがとうございました!
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